やらなきゃと分かっているのに、なかなか手がつかない。つい言い返してしまって後悔する。気が散って作業が進まない——こうした「わかっているのに、できない」の背景には、前頭葉の働きが関わっているかもしれません。
意志が弱いから、性格の問題だから。そんなふうに自分や家族を責めてしまう方は少なくありません。でも脳の仕組みから見ると、「脳のブレーキが、今は少し働きにくい状態なのかもしれない」という別の見方ができます。今回は機能神経学の基礎として、前頭葉の働きをやさしく解説します。
前頭葉とは?脳のいちばん前にある「実行機能」の中心
前頭葉とは、脳のいちばん手前(おでこの奥)にある領域で、考える・決める・抑えるをまとめる「実行機能」の中心と考えられています。
大脳の表面は、大きく4つの領域(葉)に分けられます。それぞれ得意な仕事があり、役割分担をしながら連携しています。
| 脳の領域 | おもな役割 |
|---|---|
| 後頭葉(こうとうよう) | 目から入った視覚の情報を処理する |
| 頭頂葉(とうちょうよう) | 体の感覚と、空間の中の「どこにあるか」を扱う |
| 側頭葉(そくとうよう) | 音やにおいを扱い、「それが何か」を解釈する。記憶にも関わる |
| 前頭葉(ぜんとうよう) | 計画・判断・注意・感情の調整、そして体を動かす指令 |
前頭葉の主な仕事は「抑制」——ブレーキが働くから集中できる
司令塔と聞くと、バリバリ指示を出すアクセル役をイメージするかもしれません。でも機能神経学の視点では、前頭葉の主な仕事は抑制、つまりブレーキだと語られます。
本能のままに行動することを防ぎ、反射的な反応を抑えて、いま大切なことに集中できるようにする。会議中にスマホが光っても見ずにいられる、イラッとしても言葉を選べる。どれも「やる力」ではなく「やらないでいられる力」ですよね。集中とは、余計なものを抑えられている状態でもあるんです。
ストレスがかかるとブレーキはゆるみやすい
研究では、ストレスにさらされると前頭前野(前頭葉の前のほう)の働きが低下しやすいと報告されています。強い緊張や不安が続くと危険を察知する部位の反応が強まり、前頭葉からの抑制が届きにくくなると考えられています。また、リラックスに関わる副交感神経が優位なときは前頭葉に血流が届きやすいとも言われます。
疲れているときにいつもならしないミスをしたり、感情的になったりする。それは人としてダメだからではなく、脳の優先順位が切り替わっているだけなのかもしれません。
前頭葉の3つの役割をやさしく解説
役割①:段取りを立てる(背外側前頭前野)
前頭葉の外側にある背外側前頭前野は、順序立てて考える、言葉で問題を解く、目標に向かって行動を組み立てる、といった高次の働きに関わるとされます。「何から手をつけるか決められない」「途中で別のことに気を取られる」といった困りごとは、この段取りと注意の働きと関係している可能性があります。
役割②:感情と社会性のブレーキ(眼窩前頭皮質)
目のすぐ上あたりにある眼窩前頭皮質は、感情、共感、その場にふさわしい行動、においや味の感じ方などに関わると言われます。思ったことをそのまま言ってしまう、感情が急に高ぶる。そんな場面の背景に、この領域の働きがあると考えられています。
役割③:体と目を動かす(運動野・前頭眼野)
意外に思われるかもしれませんが、前頭葉は運動の出発点でもあります。一次運動野は脊髄を通って筋肉に指令を送り、随意運動(自分の意思で行う動き)をコントロールしています。さらに前頭眼野という部分は眼球運動に関わります。ここが働きにくいと、一点を見続けにくい、文字を目で追いにくいといったことが起こる場合があると語られます。目の動きと集中がつながっているのは、こうした背景があるからなんですね。詳しくは目と脳のつながりとは?見る力を支える3つの視点もご覧ください。
前頭葉の働きが落ちているときの気づきの目安
次のような様子は、前頭葉の抑制が働きにくいときに見られやすいと語られます。
- やろうと思っていることに、なかなか取りかかれない
- 気が散りやすく、一つの作業を続けにくい
- 感情が高ぶりやすく、あとで後悔することが増える
- 段取りを立てるのが億劫になる
- 光や音がいつもより気になる
- 甘いものや刺激の強いものが欲しくなる
ただし、これらはあくまで気づきの目安で、何かを判断したり決めつけたりするものではありません。睡眠不足や忙しさで一時的に起こることもよくあります。
前頭葉を日常で育てる3つの工夫
脳には神経可塑性という性質があり、使い方しだいでネットワークは何歳からでも変わると考えられています。むずかしいトレーニングでなくても、日常の遊びに「抑える練習」を入れることはできます。
工夫①:色と文字がちがう遊びをする
「あか」という文字を青い色で書いて、文字ではなく色のほうを答える。有名なストループ課題の考え方です。読もうとする自動的な反応を抑えて、指示されたほうを選ぶ——まさに抑制の練習になります。紙に色ペンで5〜10個書くだけ。慣れたら「文字を答える」「色を答える」を交互に切り替えると、切り替えの練習にもなります。
工夫②:見たいところへ視線を移す練習
両手を肩幅より少し広げて親指を立て、顔は正面のまま、視線だけを左右の親指へ交互に移します。10往復ほどでかまいません。慣れたら、動いたほうを見ずに、反対側を見るというルールに変えてみましょう。動くものへ思わず目が向く反射を抑える練習になります。
工夫③:体を使った「止まる」遊び
だるまさんが転んだ、旗揚げゲーム、あっち向いてホイ。どれも、動きたい気持ちを止める・合図に合わせて反応を切り替えるという点で、抑制の要素が含まれています。体を動かしながら考えることは、脳にとってちょうどよい負荷になりやすいと考えられています。
- 色と文字がちがう遊び(読む反応を抑える)
- 視線を移す・反対側を見る練習(目の反射を抑える)
- だるまさんが転んだなどの止まる遊び(動きを抑える)
どれも安全に・少量で・心地よい範囲でが基本です。量が多すぎると脳には負担になることがあり、頭痛や気持ち悪さ、めまい、強い疲労感が出るようならその日はやめておきましょう。1回を長くするより、少しの量をこまめに続けるほうが向いています。
ファンクショナルブレインメソッドが前頭葉だけを見ない理由
脳は一か所だけで動いているわけではありません。前頭葉が十分に働くには、目や耳から入る情報、体の位置を伝える感覚、呼吸や姿勢の状態など、たくさんの土台が必要です。
ファンクショナルブレインメソッドでは、脳への入力(感覚)と出力(動き・自律神経の反応)という視点で全身を見ていきます。集中しにくさ一つとっても、背景は人によって違うかもしれない。だからこそ、症状の名前ではなく、その方の脳と体のつながりから見ていく考え方を大切にしています。詳しくはファンクショナルブレインメソッドとはをご覧ください。左右の脳の違いは脳の左右差とは?右脳と左脳の違いと3つの整え方、動きの調整を担う小脳は小脳の働きとは?運動と心を支える3つの役割もあわせてどうぞ。
まとめ:前頭葉の働きは「抑える力」から見えてくる
前頭葉の働きは、計画や判断だけでなく、余計な反応を抑えることにあります。ブレーキがきくから、本当に大切なことへ向かえる。そう考えると、「できない自分」ではなく「今はブレーキが働きにくい状態かもしれない」と捉え直せます。脳は何歳からでも学び直せる可能性を持っていますので、今日の遊びのような小さな練習を心地よい範囲で続けてみてください。自律神経の落ち着きも土台になります。迷走神経とは?自律神経を整える3つのケアと脳の話もヒントになるはずです。
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よくある質問
前頭葉は何歳まで育ちますか?
前頭葉は脳の中でも成熟がゆっくりな領域と言われ、思春期以降も発達が続くと考えられています。さらに脳には神経可塑性という性質があるため、大人になってからも使い方によってネットワークは変わっていく可能性があります。年齢で線を引く必要はないという視点があります。
前頭葉を働かせるには、難しい課題ほど良いのでしょうか?
難しさよりも「ちょうどよさ」が大切だと考えられています。難しすぎると脳にとって負担になりやすく、頭痛や気持ち悪さ、強い疲労感として出ることがあります。少しがんばれば届くくらいの課題を、短い時間でこまめに行うほうが向いています。
集中できないのは前頭葉が原因ですか?
一つの原因に決めつけることはできません。睡眠や食事、目の使い方、姿勢や呼吸、環境の刺激など、集中しにくさの背景にはさまざまな要素が関わります。前頭葉はその一部という視点で、全体を見ていくことが大切だと考えています。
※本記事はファンクショナルブレインメソッドの考え方に基づく一般的な情報であり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。気になる症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。




