「さっきまで機嫌よく遊んでいたのに、急にスイッチが入って泣き叫ぶ」——子どもの癇癪(かんしゃく)に、毎日ヘトヘトになっていませんか。
言い聞かせても届かない。落ち着いたあとに「どうしてあんなに怒ったの?」と聞いても、本人もよく分かっていない。そんな場面が続くと、「育て方が悪いのかな」「わがままなのかな」と、ご自身を責めてしまう保護者の方も少なくありません。
でも、脳の育ちという視点から見ると、癇癪にはまったく別の説明のしかたがあるんです。今日はその話をしてみますね。
子どもの癇癪はなぜ起きる?まず結論から
子どもの癇癪は、わがままや性格の問題というより、感情にブレーキをかける脳の仕組みがまだ育っている途中で、体が「危険だ」と感じやすい状態にあるときに起きやすいと考えられています。
つまり「気持ちの問題」ではなく、「脳と体の発達の途中経過」として見てあげられる、という視点があるんです。そう捉えられるだけで、関わり方の選択肢はぐっと増えます。
言葉が届かないのは「脳の3階層」の順番があるから
脳は、下から上へと順番に育っていきます。人とのコミュニケーションも、じつは3つの階層に分けて考えることができます。
| 階層 | おもな働き | 届きやすい関わり方 |
|---|---|---|
| 大脳皮質(言葉の脳) | 理屈で考える・言葉で理解する | 落ち着いているときの会話 |
| 大脳辺縁系(感情の脳) | 好き嫌い・不安・安心を感じる | 表情、声のトーン、まなざし |
| 脳幹(体と態度の脳) | 呼吸・心拍・姿勢、安全かどうかの判断 | そばにいる、触れ方、呼吸、揺れ |
癇癪の最中の子どもは、いちばん下の階層——つまり「体と安全」のレベルで反応していることがあります。だから、いちばん上の階層である言葉(理屈)だけで分からせようとしても、届きにくいんですね。
言い聞かせが効かないのは、あなたの伝え方が下手だからではないのかもしれません。単純に、脳の「受信できる階層」が今は違う、というだけの話かもしれないんです。
子どもの癇癪の背景にある3つの脳の視点
視点① 脳幹と自律神経:「安全スイッチ」が入りにくい
人は「安全だ」と感じられているときに、はじめて人とやりとりができたり、気持ちを切り替えたりできると考えられています。逆に脳が「危険だ」と判断すると、体は闘うか逃げるかのモードになります。叫ぶ、暴れる、あるいは固まって動かなくなる。どれも、脳が身を守ろうとしている反応です。
この切り替えに深く関わっているのが、副交感神経の代表格である迷走神経です。迷走神経の働きが十分に発揮されているとき、表情ややりとり、感情の調整がしやすくなるという研究の視点があります。
視点② 原始反射:驚きやすさが残っていることがある
赤ちゃんが大きな音や落下する感覚に対して、両手をパッと広げる——これがモロー反射です。生まれたときの身を守るための反射で、生後4か月ごろまでに、より成熟した動きの中へ自然に溶け込んでいく——これを「統合」と呼びます。
ところが、この反射が残ったままになっていると、次のような様子が見られることがあると指摘されています。
- 音や光、急な動きにびっくりしやすい
- 触られることや、服のタグ・髪を洗うことを嫌がる
- いつもどこか警戒しているように見える
- 活動の切り替えがスムーズにいきにくい
- 感情が大きく揺れやすい
大げさに反応しているように見えても、本人の脳は本当にびっくりしているのかもしれない。そう考えると、見え方が変わってきますよね。落ち着きがない様子と原始反射の関係については、こちらの記事でも触れています。
視点③ 前頭葉:感情のブレーキはゆっくり育つ
衝動を抑えたり、「今はガマンしよう」と判断したりする働きには、前頭葉(とくに眼窩前頭皮質と呼ばれる部分)が関わっているとされています。ここは脳の中でも育つのに時間がかかる場所です。
だから、幼い子どもが感情を抑えきれないのは、ある意味で自然なこと。そして「今できない=ずっとできない」ということでもありません。
癇癪が起きやすい場面のサイン
癇癪は「突然」に見えて、じつは条件が重なっていることが多いものです。次のような場面は、脳にとって負荷が高くなりやすいと考えられます。
- 大きな音、人混み、初めての場所
- 予定の変更や、遊びから片づけへの切り替え
- 疲れているとき、お腹が空いているとき(脳のエネルギー切れ)
- 服のタグ、帽子、靴下など、触覚の不快感があるとき
- 前の晩、眠りが浅かった日
※これらは病気や障害を判断するためのものではなく、あくまで「うちの子はどんなときに苦しくなるのかな」と気づくための目安として使ってみてください。
家庭でできる3つの工夫
むずかしいことをする必要はありません。日々の関わりの中で、少しだけ順番を変えてみる。それだけで、お子さんの脳が受け取るものは変わってくるかもしれません。
工夫1 見通しをつくる(予測できる一日にする)
脳にとって「次に何が起きるか分かっている」ことは、それだけで安心材料になります。一日の流れを絵や写真で見えるようにする。「あと3回すべったらおしまいね」と先に伝える。予告があるだけで、切り替えのハードルはずいぶん下がります。
工夫2 言葉より先に「安全」を届ける
癇癪の最中は、説明よりも先に安全を伝えます。声のトーンを低くしてゆっくり話す。刺激の少ない静かな場所へ移る。責める言葉はいったん後回しにして、そばにいる。
そして落ち着いてきたら、一緒に「吐く息を長くする呼吸」をしてみてください。吸う息より吐く息を長くすると、副交感神経のほうへ傾きやすいと考えられています。「ふーっ」と風船をふくらませるまねをするだけでも構いません。
工夫3 遊びの中で「ブレーキ」と「驚きにくさ」を育てる
感情のブレーキは、じつは体を使った遊びの中でも育っていきます。
- 丸まる・開く遊び……体をぎゅっと小さく丸めてから、大の字に開く。これをゆっくり数回。息を止めずに、心地よい範囲で。
- 抑制(ガマン)の遊び……「だるまさんが転んだ」「あっち向いてホイ」「後出し負けジャンケン」など、動きたい衝動をちょっと止める遊び。
- 揺れる遊び……ブランコ、でんぐり返し、抱っこでゆらゆら。バランスの感覚は、姿勢だけでなく情緒の土台にも関わるとされています。
大切なのは「量より頻度」です。1日5〜10分を毎日のほうが、まとめて長時間より向いています。安全に、少量から、心地よい範囲で。嫌がるときは無理に続けず、頭痛や吐き気、気分が悪くなったときはすぐに中止してください。
ファンクショナルブレインメソッドの視点
脳には、使い方や入ってくる刺激によって働き方が変わっていく「神経可塑性」という性質があると考えられています。だからこそ、癇癪という一つの行動を「性格」で終わらせずに、その背景にある脳と体の状態を見ていく意味があるんです。
ファンクショナルブレインメソッドでは、症状そのものを追いかけるのではなく、姿勢・バランス・自律神経・感覚の使い方といった全身の情報から、その子にとって足りていない土台を探していきます。考え方の詳細はファンクショナルブレインメソッドとはをご覧ください。
また、発達障がいの種類・特性・現れ方や、実際に通われた方のお客様の声も、参考にしていただけたらうれしいです。
まとめ
子どもの癇癪は、わがままでも、育て方の失敗でもないのかもしれません。脳の3階層という順番、原始反射の残り方、そしてゆっくり育つ感情のブレーキ。その3つの視点から見ると、「困った行動」は「まだ育っている途中のサイン」に見えてきます。
まずは、言葉より先に安全を届けること。そして見通しをつくること。今日からできる小さな一歩を、ひとつだけ選んでみてください。
よくある質問
子どもの癇癪は何歳ごろまで続きますか?
感情を抑える働きに関わる前頭葉はゆっくり育つため、年齢とともに落ち着いていくことが多いとされています。ただし発達のペースには個人差が大きく、一律に「何歳まで」と言えるものではありません。年齢が上がっても本人や周りの負担が大きい場合は、一度専門家に相談してみるのもひとつの選択肢です。
癇癪のとき、抱きしめるのと少し離れて見守るのは、どちらがいいですか?
お子さんによって異なります。触れられることで落ち着く子もいれば、触覚が過敏で、そっとしておくほうが早く回復する子もいます。共通して大切なのは、まず安全を確保し、声のトーンを落として落ち着いて対応することです。ふだんの様子から、その子に合う方法を探してみてください。
原始反射が残っているかどうかは、家庭で分かりますか?
音や急な動きにびっくりしやすい、切り替えが苦手といった様子は気づきのヒントになりますが、それだけで判断はできません。原始反射の状態を見るには専門的な観察が必要です。気になる場合は、認定店などでご相談いただくことをおすすめします。
ご相談・ご予約について
お子さんの様子で気になることがあれば、お気軽にご相談ください。WEB予約はこちらから受け付けています。公式LINEからのご予約・お問い合わせも可能です。「何を相談したらいいか分からない」という段階でも大丈夫ですので、まずは今の困りごとをそのままお聞かせください。
※本記事はファンクショナルブレインメソッドの考え方に基づく一般的な情報であり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。




